YONG DONG _ RESTAURANT - KANAGAWA
ヨンドン本店 _ レストラン - 藤沢/神奈川
鎮座した既存のオブジェはエントランスの顔。それの基部がもつ凸形の反転を背後の壁に反映、引立たせる【呼応の形】とし、オブジェ/壁一体で【場を作る強い求心形】へ。
リニューアル後
リニューアル前
リニューアルのイメージスケッチ
地元で展開する人気焼き肉店の本店。1992年のオープンから30周年記念を迎えたリニューアル。面積約300㎡のワンフロアと広く、既存のデザインには、さまざまな様式が強い色彩で表れた混沌の華があり、ポストモダンの余香がする。プロジェクトは凡そ、壁・天井の色や素材を変えるのみ――「プラン」「床」「木部」「石部」「固定/可動間仕切り」「建具」「造作(一箇所以外)/置き家具」「建築設備(照明以外)」は既存のまま――で、設計も工事も極端に期間が短い。概して表層的な模様替えと言っていい。とはいえ、隠微ながら大々的なところもあり、壁をすべて漆喰塗りとする要望や照明をすべて見直す刷新を成している。
「既述の与条件」「長年切り盛りしてきた店や先代に対する当代の思い」「なじみの客を獲得してきた本店としての懐古色」「(好みはさておき)今後は生れない時代的産物のデザイン」、それらを考慮すると、イメージを以前から一変させてしまうのは違う気がした。しかし、字義通りのリニューアル性は打出すべきで、引き継がれた配置、配色の中にも、どことなく店がステップアップした格調と、何となく体感する清新な明るい空気感を吹込みたかった。そこで、幾ばくかの付加――【呼応し連鎖する凸凹形の繋ぎ】という仲媒――に、既存デザインの「整理」、既存空間の「強調と鮮明化」、新しい効果の「創出」という役を担わせた。何より、こうした切り口が【繋いできた/ゆく】という店の軌跡へ【リンクする】気がしたのだ。
前出のオブジェの基部など、既存に点在する凸状の特徴形を抽出して「強調」、【一貫する形のヴォキャブラリー】とした。
リニューアル後
既存由来の形は、より立体的・動的・一体的に凸凹し、空間化する――縁の形が空気と噛合う――要素へ変換、其処此処で【類同の形を共鳴】させる。専ら既存に欠けていた上部への意識を促す。
リニューアル後
リニューアル前
リニューアルのイメージスケッチ
席や通路の巾など既存の有効寸法に支障を及ばさない程度、わずかに斜めへ張出す壁。フロア最奥まで反復していく「変化形」「誘導形」で、壁と照明の「一体形」でもある。(一本のテープライトは、上を照らす間接光と壁面の四角い穴から漏れる光を兼ねる)
リニューアル後
リニューアル前
リニューアル後
リニューアル後
前傾させた「新規の壁上端」と「既存の格子下端」に、「新規⇔既存」「空間の端⇔端」で、凸凹と折れつつ、水平方向へ行交う【ひと続きの繋ぎ】のラインを見出す。同時に、惹き起こしたゲシュタルト効果で【内外を繋ぐ】。「地」である窓外の景色は、既存のピクチャーウィンドウに切取られて「図」の形も現している。その「図」の相似を、隣接する壁の新規形に。すると、それら「図」を表す互いの形が隣へ対称的にスライドし、転換、「内⇔外」「図⇔地」「図⇔図」が凸状と凹状に前後でシンクロした空間の奥行きを生む――外/窓の「透明・具象・遠方・不分明」と内/壁の「不透明・抽象・近方・明瞭」の対照が行交い、「明」と「暗」の箇所は互いで入替る。くだんの【ひと続きの繋ぎ】に、もう一つ別の【新しい次元の繋がり】が新旧の間に浮き出してくる。
リニューアル後
リニューアル前
リニューアルのイメージスケッチ
リニューアル後
リニューアルのイメージスケッチ
唯一、丸々作り替えたカウンター。新しい形で、以前のままの使い勝手と、以前の形をぼんやり残す置き換えを行った。オリジナルが、先代の手作りと伺った流れで、【原形の機能と記憶を繋ぐ】アプローチとした。
TEXT by 田中伸明
YONG DONG _ BARBECUE RESTAURANT
( 韓国宮廷料理・焼肉 ヨンドン本店)
LOCATION:
FUJISAWA, KANAGAWA (神奈川県藤沢市)
CLIENT:
MY Inc. (株式会社エムワイ)
PROJECT:
意匠(基本設計・実施設計・監理): スタジオ・ニーネ 田中伸明
統括: 梶浦暁建築設計事務所
照明: Mantle Inc.
写真: 西川公朗 (改装前や一部ディテールの写真を除く)