ポルトガル建築について

ARTICLES ABOUT PORTUGUESE ARCHITECTURE

田中伸明

建築専門誌|彰国社|ディテール|連載

ポルトガル建測考 

———— 実測ノートから考察する表現としてのディテール

Consideração dos detalhes como expressões das notas de medição reais

行く先々で建造物を記録した旅の実測ノートから、ポルトガル建築の約半数分を毎回1建物ずつ放出していきます。

自身のためだけの記録に終わることと、他者に向け、実のある読み物とするのでは大きな違いがあるもので、どのように書くか悩んだ末、ノートに記した「メモ」「スケッチ」「寸法」をベースに「書籍で調べたこと」「建築家/構造家に聞いたこと」を合わせ「自身の考察」でまとめたエッセイの形にしました。

測った表面からだけでは決して知り得ない内部の情報、しかしディテールは内なるものが表へ出ることが多いもの。

内容が表層の図/寸法/推察ばかりで溢れては仕様がないので、「書籍で調べたこと」「建築家/構造家に聞いたこと」によって、情報を加えたり、考察の論拠としたりしました。測って描き起こした図面には、整った設計の寸法とは違う、実際の建物が持つ不揃いで端数のある現場の値が多く現れます。また、実測は切りのない作業な上、慎重に丁寧に測ったつもりでも、不陸や測った位置の微妙な違いによって「同じそこの天井高=ここの天井高」「同じ柱上部の幅=柱下部の幅」「部分+部分+部分……=全体」のようにはピタリとそうそうならず、きちんとまとまった記録を作り上げるのは、かなり厄介なものです

そういった「実測値ならではのあれこれ」「各表紙に記す訪れた場でノートに綴った印象」「原稿サイズのままに印刷された図面」などに、実際の建物を前にするライブな空気を感じていただければと思います。

きっと、写真では気づくことがないであろう、訪問して分かるような、ポルトガル建築特有の美/スケール/施工精度、そして各建物に現れた建築家それぞれが模索した独特の細部表現を確認していただけることでしょう。

持ち帰ってきた遠き国の建築を、この連載を通してぜひ皆様に紹介させていただきたいと思います。

#4 ESCOLA SUPERIOR DE EDUCAÇÃO DE SETÚBAL  (RGB).jpg

#4

古今の妙

ストゥーバル教育大学

/ アルヴァロ・シザ・ヴィエイラ

Escola Superior de Educação de Setúbal

Álvaro Siza Vieira

リスボンの南東30km強に位置するストゥーバル(Setúbal)。市街地から東へ、沿岸の寂れた工業地域を抜けて閑静な郊外にやってくる。電車を降りて少し歩くと、建物は現れ、まず出迎えてくれるのが、細長く背の低い付帯ヴォリューム。それには屋根がなく、壁は外の白に対し、内を赤い差し色で染めている。正面に開く巾1.1×高さ2mの小さな口が、駅から来る生徒を一人一人、赤い腹中に吸い込んでゆく。ここは、建物の門口で、別の校舎へ向かう通り抜け口でもある。そして、学校生活の物語、日々のプロローグとエピローグにもなるのだ。
この辺りでは、緩やかに起伏した草地にコルクガシやオリーブが点在する典型的な南部の農業景観を目にできる。建物は、古くから存するそんなランドスケープの中にあって、ゆったりうねる緑の野面(のもせ)へ、広げた白い幾何形構成が、凛としつつ周囲と打ち解けている。透徹した青と眩い日差しの下、目に映ずる姿に、ひと際、清爽で清麗な存在を感じるのである。

 
#3 ADAPTAÇÃO DO MOSTEIRO DE FLOR DA RO

#3

新旧の結び

フロール・ダ・ホォーザ修道院のポザーダへの適応

/ ジョアオ・ルイシュ・カヒィーリョ・ダ・グラッサ

Adaptação do Mosteiro de Flor da Rosa a Pousada

João Luís Carrilho da Graça

修復・復元された既存建物のもつ雰囲気が絶大だ。その神秘と威厳を兼ねた古色蒼然たる重厚なマッス「クラシック」へ、現代に増改築されたホテルの軽快なシンプリシティ「コンテンポラリー」が付帯する。花崗岩積みでできた垂直強調の大きなヴォリューム構成が、大地に乗る既存建物の外観。真っ白なパネル状のRCによる水平強調の組み合わせが、大地に浮くアネックスの外観。それら両者の噛み合わせは、造形・素材・色彩・新旧の表現において、あまりに瞭然たる対比の見場を作っている。厳つい「クラシック」の中を抜けた奥、そんな白い「コンテンポラリー」な客室へ辿り着き、窓外に見るのは低木と草地が続く茫々たる農場の眺め。遠くで、牛が鳴き、鶏が叫び、犬が吠え、羊の群れが首のベルを奏でている。こんな田舎下くんだりなのかと改めて感じ、「コンテンポラリー」な建物と農場の風景というゆくりなく現れた印象の落差と、都会では聞き慣れない長閑のどかな喧騒に拍子抜けしてしまう。周辺は、昔からそう変わらぬままだろう。きっとこの建物だけが多くの変遷を経てきたのだと。

 
#2 BIBLIOTECA MUNICIPAL DE VIANA DO CAST

#2

川辺にずれる矩形

ヴィアナ・ドゥ・カシュテロ公立図書館

/ アルヴァロ・シザ・ヴィエイラ

Biblioteca Municipal de Viana do Castelo

Álvaro Siza Vieira

緑の平面に悠々と置かれた、シンプルな形の構成を見せる巨大な白いマッス。旧市街をバックに、これの輪郭「直線/直角」のシャープネスが、清新な空気をこの地へと吹き込む。ダイナミックにリフトアップしたヴォリュームの一部と大地との狭間には、横長にフレーミングした向こうの川辺の風景が抽出され、それが何とも絵になり、行き交う人もその一コマを作っている。上部に展開したずんぐりと重いヴォリュームには、水平連続窓が長々と開き、そこに取り巻いた薄く長く軽やかに刎ね出すバルコニーと庇が、さらに水平を高調して、ファサードへ深く鋭い表情を添える。ここの内部、2階書架・閲覧スペースに入ると、外部地上で見た横長に切り取られていた向こうの風景を、その水平連続窓により再び横へ細長く切り取られて眺める、という「視点枠のリフトアップ」に導誘される。この1階でも、2階でもという段階的アクションによって再び目に投影される<矩形>をした「細長の絵」は、この地で唯一この建物のみがもつ人の心に留めさせる情景となる。

 
#1 PAVILHÃO DE PORTUGAL EXPO'98 (RGB).j

#1

大航海時代への窓

ポルトガルパヴィリオンEXPO’98

アルヴァロ・シザ・ヴィエイラ

Pavilhão de Portugal na Expo'98

Álvaro Siza Vieira

雲一つない真っ青な空をバックに巨大なカテナリーの白い面が浮く。緩く垂れ込めた曲面の裏には反射光によって強さを和らげた影がぼーっと貼りついている。想像だにしない圧倒する大スパンとシンプルな造形の出現。それは、この場に名状しがたい異の光景を創出する。あまりのスケール感に下を通りゆく人の姿が小さい。大面積のキャノピーの下に入った瞬間、逆さ穹窿(きゅうりゅう)形に空間がやんわり押されたような、何やら空気が変わるのを感じる。空間は塞がれることなく、周囲の環境とつながり、向こうへ大きく抜けて開放的なのに。 ……やはりここは、周辺とは別の世界だ。反響する音もまた、この空間へ入ったときに周囲と違った感覚を覚える要因の一つである。デザインとしては、ある種、最小限の要素で、しかし、最大限の効果を以て異(い)なる空間が生み出されていると言えるかもしれない。両側にある箱状のポルティコ、それらから吊られたキャノピーと大地との間にできる関係性によって。