IL FUGO _ RESTAURANT - KANAGAWA

イルフーゴ _ レストラン - 藤沢/神奈川

2019

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雑多な都市空間に埋もれる小さな入り口。それは、古いビルの一角にあり、道路に向かって緑青(ろくしょう)に包まれた口を開けている。ここの階段を降りていく。次第に街の喧騒が遠のき、インナーの世界観に誘導され、階段を折れると僅かに開けた明るいホール(ギャラリ―)へ至る。そこの一面に在る内外の結界、壁(大とびら)を回転させると、雰囲気が裏返ったように、別の世界が開ける。室内には「洞窟的」「隠れ家的」な空気が醸成されている。モダンなデザインテイストながら、そのような雰囲気を湛えるのは「外壁のような素材」「寂(さ)びのある質感と色」「変転した壁と天井の形」「奥行のある空間」「落とされた照度」が作り出すものだろう。暖炉の炎と照明の灯りが落ち着く暖色を満たす中、わずか10名をもてなすカウンター席が用意されている。そこへ座ると、正面すぐ向こうで調理されたイタリアンのコースが、目の前で順次、丁寧に、贅沢に振る舞われるのだ。

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与えられたテナント空間は、地階にあって、暗く小さい限られた条件を持つものだった。それは、「地階」という外の景色も光も入らないただのスペースを、店舗の性格に沿う形で、如何に魅力的な世界とするかということ。そして、「狭さ」に対しては、(カーンの語彙を借りるならば)「サーバントスペース」を如何に効率よく集約させ、「サーブドスペース」をよりオープンに作れるかが課題になることであった。

これら課題に対し、必要機能と必要条件の納まりと取り合いの寸法を極力小さく抑え、それらの場所と場所を直線で結んでいった ― 「壁や天井に圧迫感を軽減する広がりの角度を与える」「客/従業員/用途を振り分けた動線軸を規定する」「シークエンスを展開させる」「柱・梁を避ける」「吸排気のダクトスペース・給排水のパイプスペースを遮蔽する」「必要な角度での光源を確保する」「必要機器類を入れ込む」「必要な収納を取る」「開ける扉を差し伸べるような角度で置く」「調理の飛び跳ねや垂れを避ける角度を作る」……

結果、そうしたラインによって生み出されたものが、空間を縦横無尽に行き交う「斜傾の形」となった。これらは、素直に出た必然の形でありながら、同時に個性を包含した形ともなって、固有の世界観をこの場に創出させるものでもある。
そのような形やスペース作りの方便を、粉飾する造形と画した、贅物を削って場にそぐう形へ条件を解き繋いでゆくデザインだと理屈では言いたい。

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床・壁・天井がボードとボードで構成され、各エレメント同士が構築されていることを素直にシンプルに表した。パラパラと様々な角度の面が展開するパネルらは、ときに点や線の形でピタリと一つにまとまる。床・壁・天井という3者は、取り合いが、関連し合って繋がりゆく。或は、平面図で斜め方向に規定した一枚の壁が表裏で別の空間性を規定する。つまり、一部で始まった形が別の形や空間の伏線になっているような感覚。それらは、造形の奔放性と規律性が混沌とする中に操作された作意の美や遊び心を見出したものだ。

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エントランス部分でさりげなく切り替わる動線軸、ジグザグと折れ上がる天井は、歩を進めると手前の形に蹴られて見えなかった別の形が顔を出し、奥へ至って振り向くと来るときと違った造形の方向性や展開性を目の当たりにできる。スペース最奥のブロンズミラーに写り込む空間が反転した形は、その場面の違いを示唆している。これらは、そそり立つ垂直壁や一様な水平天井とは異なった圧迫性をにわかに欠いて、限られた空間の中で伸びや表情を変容させるしかけとなるものだ。

場所の狭さゆえに限られた広さの条件、基本奥へただ一本伸びた単一空間と行き戻る動線である。しかし、これら何れの解法も、そんな中にシークエンスの展開を仕組んで、より豊かな空間の広がりを形成する試みとなっている。

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道路からのアプローチに関して、店として唯一の個性を放てるもの、しかし、都市に対して出過ぎず、それとの「繋ぎ」となり「埋もれる」ことができる素材や色を求めた。街中を渉猟し使われていない色、しかし外部に使っても違和感ない自然なもの。それが、銅が錆びた緑青(緑青風塗装)である。入り口には、それとなく誘(いざな)うような形としての「斜形」と、このすでに「寂(さ)び」を宿したテクスチャーによって、都市と店とを繋いだ。この外に対する在り方の感覚は、内に僅か10席しかもたない店が、主張し過ぎず、さりげなくこだわりの料理を客に差し出すスタンスと同調するように思われた。

 

この都市で、ゆったりとした平生の気持ちを延長したまま入れるところ。しかし、料理においても、空間においても、未見で稀代な時を堪能できる「特別」を秘している。そう感じられる場所になれればと考えた。

TEXT by NOBUAKI TANAKA

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IL FUGO _ ITALIAN RESTAURANT

(イル・フーゴ _ イタリアンレストラン)

 

LOCATION:

FUJISAWA, KANAGAWA (藤沢、神奈川)

CLIENT:

LUCCA (ルッカ)

https://www.il-fugo.com/

デザイン(基本設計・実施設計・監理): スタジオ・ニーネ 田中伸明
 

プロジェクト統括: 梶浦暁建築設計事務所
 

写真: 井上隆司、田中伸明

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