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各々のプロジェクトの各々のステージで各々の種のスケッチを描くが、その中でも施主へのプレゼンテーションに使用したスケッチを並べている。しかし、プロジェクトは様々な要因によって当初の案通りには実現しないことがしばしば。これらは形を変えて実現した絵となったり、プロジェクトが都合で沙汰止みとなった夢の絵であったりというものばかりである。机上のデザインで留まったとはいえ、それぞれのプロジェクトに真摯に取り組んで見出した新しい提案を持つものである。
TEXT by 田中伸明
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庇蔭された小世界
庇蔭(ひいん)された
小世界
日本
沖縄に計画された娯楽施設である。新しいオリジナルデザインの提案であっても、そこの風土を継承する感覚を盛り込みたかった。左右に振り分け回り込ませる動線を作る壁(塀)は、琉球古民家の「ヒンプン」から来ていて、その裏には自然光の下、ガジュマルが植わる中庭「ナー」が開ける。高々と迫り上がった天井のスカイライトは、強い日差しの進入を追い遣るものだが、古民家の赤瓦屋根が反転したしたような形をそこに充てている。大きく張り出す日焼けした古木の天井は、古民家の庇「アマハジ」を思い起こすだろう。それらは、目隠し、魔除け、防風、防火など琉球古民家が持つ外部から守ることでより快適な内部を確保するという伝統のデザイン手法が、ここにおいて、内部により完結した独自の小世界を獲得するという読み替えになっている。シーサー、石灰岩、水色の水盤は沖縄の海、彩度の高い色は紅型(びんがた)といったものも、瞭然とその土地らしさを追従したものだ。
家並み形が継ぎ繋ぐ
家並み形が継ぎ繋ぐ
日本
駅舎で「街並み」を作り出す。昔の三角屋根が連なっていたような風景が、この地に戻ってくる。「家」を思わすような相貌は、きっと人々に親しみを抱かせ、起伏ある緑地が多いこのエリアに馴染むことだろう。その姿と雰囲気に、旅の玄関である駅舎が「家」から外へ向かい、外から「家」へ戻ってきたような感覚も与えてくれるはずだ。そんな駅舎は南北と東西に大きく景色を望む形と配置になる。列車の軌道によって分断していた南北、「場」と「人」と「時」を様々なデザインエレメントと共に「継ぎ繋ぎ」直すHUBとしての役を担う。
蒼を仰ぐラウンジ
蒼を仰ぐラウンジ
ポルトガル
巨大なスカイライトの下、吹抜ける空間にカフェがあり、小さなイベントが催せる。「マー・ショッピング・アルガルヴ」のモールの中央に位置した小さな広場。フードコートと同じデザインテイストを踏襲し、シンボルとなる樹が上階まで枝葉を広げている。人が集い、憩い、そして活動できる屋内のポケットパークとなることを期待した。
時の隧道
時の隧道(ずいどう)
ドバイ
ホテルの待ち合いカフェ/バー。遠方より訪れた旅人が、また旅立つまでの、ほんのひと時立ち寄る場所。そのわずかに流れた時の印象を記憶に留めておけるような独特の場が望まれた。オレンジのタイルに張った水、剥がれたような壁や天井は周囲に大きな蠢(うごめ)きを感じさせ、少々非現実なトンネル空間を演出する。向こうの出口まで別の時の流れを感じはしないだろうか。
最上階の籠
最上階の籠
マレーシア
フロアを取り巻く立っ端のある窓からは、都会のビルが建ち並ぶパノラマをぐるりと見渡すことができる。ここは、スカイスクレーパーの最上階のレストランとナイトクラブ。都会の夜を満喫する物見の箱として、施主の好んだ格子状のデザインモチーフが、床・壁・天井へと展開する籐籠で包んだようなスペースになった。
囲いの穴道
囲いの穴道(あなみち)
マレーシア
場所の都合上、店舗までのアプローチは長々とした距離になってしまった。扉向こうに開ける世界への徐々な期待感を、ぐっと抑えつつも次第に増していくような段階的にステップアップしていく園路の空間とした。店舗の種により、木の籠の囲いが東洋のテイストを出す。
アズールの間
アズールの間
ポルトガル
ポルトガルの伝統装飾タイル、アズレージョ(Azulejo)をモチーフにしたホテル。18~20世紀に主流となったブルー(Azul)のものが古い既存建物の内部の壁に施されていた。それらを修復し再利用、新しいデザインにも同じヴォキャブラリーを全面的に取り入れ、古き伝統が、現代性を帯びたテイストと重なって継承される。
斑紋に包まれる
斑紋に包まれる
ポルトガル
個人邸にあるスパ。大判の白大理石(模造タイル)の斑紋が反転し連続していく。それは、モダンでシンプルなデザインが包容する清潔感と緊張感の中にも、ある種の味わいと高級感を表出する。
街に向ける顔
街に向ける顔
エクステリア
ポルトガル
「ヴィトリア・ストーン・ホテル」のファサード検討。拡張された5層目と追加されたフロア6層目。それら新設部分が違和感なく既存部分と繋がると共に、新しい特徴にもなることを試みた。街に対してどんな建物の顔を作るかは、ここヨーロッパでは行政によるチェックが厳しい。これは色彩において、この地域の主である白壁の地に黄色が枠取りする建物群をフォローした案だが、最終的には別の地域色、赤を全面に塗るものとなる。
木に篭れる
木に篭(こも)れる
ポルトガル
「アモレイラシュ・ショッピング・センター_フードコート」のプロポーザルに提出したイメージ。木という単一素材で空間全体を作り上げることを明示したもの。後にディテールのデザインは、いろいろと追加していくが、この「単一仕上げのモノ空間」というコンセプトの大枠はぶれることなくしっかりと保持される。
自然が降る
自然が降る
ポルトガル
緑と水を愛する施主は、地下であってもそれらに囲まれる空間であることを望んだ。外部から降る自然光が空間を明るく満たし、覗いた空の碧へ点在する緑が伸びてゆく。それらの姿を水面(みなも)が映し受け返す。
吊られ刎ね出し置かれる
吊られ刎ね出し置かれる
ポルトガル
個人邸の階段のデザイン。インテリアデザインであっても、構造と表現が一貫する明快なものを求めた。この点は建築サイドの思考であって、装飾というセンスは仕上げ材までである。階段はオールドスクールでは、手の抜けない見せ場。段板を支える構造の違いで歩みのテンポを変えて見る。そんなことが、日々の上り下りにさりげない楽しさを与えはしないだろうか。
海と空を掴むギャラリー
海と空を掴むギャラリー
ポルトガル
海に囲まれるマデイラ島。美術館・レストラン・住戸が入るコンプレックスは、その前面に広がる美しい水平線の景色を各階のギャラリーが余すところなくものにする。同時に建物は、景観の魅力を引き出す新しい一員ともなる。ソリッドなヴォリュームたちで構成される棚状の見場を形作っているが、そんな量感ある造形の中にも、ヴォリュームの切れ間を抜けて向こうの景色が覗くような透明性も合わせ持つ。地と一続きになるよう、火山島であるこの地を形成する黒い玄武岩が仕上げとなっている。
繞る摩天楼
繞る(めぐる)摩天楼
ポルトガル
施主の好きなニューヨークがモチーフとなり、垂直強調のスカイスクレイパー(摩天楼)が林立するかのような空間が演出される。昼はレストランとして営業しているが、夜は置かれた家具が収納され、壁面にある無数の孔(窓)にあかりが一斉に点り、ディスコテックへとコンバートされる。
地に穿つオアシス
地に穿つオアシス
スペイン
既に居住している個人邸の庭にSPAの増築が検討された。眺めを一変してしまうような外部に突出するヴォリュームを抑えるため、建物を地中に作ることを提案した。そこは、プライベートがしっかりと守られているが、外を存分に感じ取れる開放された空間。上から差し込む自然光が水に揺らぐ静寂の世界を地中に秘める。
水幻窟
水幻窟(すいげんくつ)
「水」をモチーフとした架空のホテル。矩形が継ぎ合わさり、床壁天井が一連するスペ―スはモダンな洞窟とでも言うものだろうか。幻想的な空洞に霧が滝のように降り、水盤から溢れた水の音(ね)が心地よく響く。「水」という一貫したモチーフだが、スペースごとに体験を違える異世界が展開されていく。宿泊するだけではなく、体感できる美術館のような空間を漫(そぞ)ろ歩くのもまた一興であろう
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