VITÓRIA STONE HOTEL - ÉVORA
ヴィトリア・ストーン・ホテル - エヴォラ/ポルトガル
Project provided from ATELIER NINI ANDRADE SILVA
大きな木の扉を押し開けると、そこはエントランスロビー。真ん中には3つの巨石(メンヒル)が構え、壁面には環状列石群のイメージが広がり、天井には緩く長いカーブの光のラインがいくつも交差する。ちょっとした異の空間の演出が客を出迎えてくれる。抑えた天井高に面積も決して広くはないスペースだが、抑揚をつけた形態の展開に延びのあるインテリア空間を感じることができる。最上階に上がり屋外に出ると、抜けるような蒼天と遥か向こうまで広がる平野のパノラマが目に入ってくる。そこのスイミングプールとバーで日 の沈むひと時を過ごすのが、また格別なのだ。
このホテルのあるエヴォラ(Évora)は、ポルトガル南東部のアレンテージョ地方(Alentejo)に位置する。地上6階地下1階建て、外部テラスも含めた床面積は3330㎡。地下に多目的ホール、1階にロビーとレストラン ・バー、2~4階に計48の客室、5階にレストラン・バーとSPA、6階にスイミングプール、ジムとバーがあり、小振りのホテルながらあらゆるサービスを一式備えている。クライアントの先代が残してくれたホテルの老朽化に際し、内装を一新するだけではなく、フロアを拡張したり一層足したりと、構造を含めて建築へも大きく介入したリニューアルプロジェクトだ。
2013年、ポルトガルは世界金融危機の真っ只中であり、予算の工面には中々の苦労があった。それらを補助する策として、各所に独特のテイストを作り上げている仕上げやデコレーションが、実は残り物、拾い物であることに気づく人はいないかと思う。ヘッドボード、カウンター、サイドテーブル、壁、エントランス扉など木板仕上げのすべては使用済みのコンパネ、1階の石の洗面はかつての馬用水飲み場、5階のレストランの穴の開いた壁面照明は使用済みの足場板、壁にかかる抽象的なオブジェは加工前のコルクの皮や錆びたベッドの内部構造などなど。しかし、それらはデザインに異物や安っぽさとして竄入ざんにゅうする感はなく、むしろ新生して面白い色と味を空間に附与するために戻って来たのだ。
スペースがあまり広くないので、当初の案は、家具や設備が効率よく納まる四角や直線をベースとしたプランニングであった。しかし、現場からは、古い壁を撤去する度、建築図面に表れていない新たに発見された情報、上階からの排水管や柱が、日々次から次へと上がってくる。それらは、頂いていた図面とは、まったくサイズも位置も違う。そんなもの達は、そこここに落ち、天井をうねり、あまりに大きく乱雑、平面上で中々一直線に揃わない。もはやこれらをデザインに如何に消化するかは大きな条件の一つとなった。そこで登場したのがカーブというモチーフ。ちぐはぐするそれら同士をカーブの線で無理なく素直に繋げてみた。そうすると驚く程に効率よくスペースを取ることができる上、すっきりしたデザインとなった。加えて四角や直線よりカーブの方が硬さが取れてこの地やホテルのイメージにより良い感じである。
新たに登場したデザインモチーフは、石。それはエヴォラ郊外にある新石器時代の遺跡で、アルメンドレシュの環状列石群(Cromeleque dos Almendres, 6000-3000 B.C.)と立石(Menhir de Almendres, 6000-5000 B.C.)、ザンブジェイロの支石墓(Anta Grande do Zambujeiro, 4000-3000 B.C.)を元としている。これら大地の遺物をホテルの売りとなる個性として、一貫するインテリアデザインのボキャブラリーとして、全面に展開した。そして、あの効率から生まれたカーブはエヴォラまでの旅中に見るアレンテージョ独特の緩く起伏する大地のカーブを、天井の交差する光のカーブは蒼天の飛行機雲の交差に重なるイメージともなる。
訪問すると、きっとこの場の持つソウルを感じ取ることができるだろう。
TEXT by 田中伸明
VITÓRIA STONE HOTEL (ヴィトリア・ストーン・ホテル)
LOCATION:
ÉVORA, PORTUGAL (エヴォラ、ポルトガル)
CLIENT:
VITÓRIA STONE HOTEL (ヴィトリア・ストーン・ホテル)
http://www.vitoriastonehotel.com/
PROJECT:
ATELIER NINI ANDRADE SILVA
(アトリエ・ニニ・アンドラデ・シルヴァ)
PHOTOGRAPH:
NICK BAYNTUN (ニック・ベイントン)
ANDRÉ GONÇALVES (アンドレ・ゴンサルヴェシュ)
このプロジェクトは、ATERIER NINI ANDRADE SILVAのものであるが、NINIの認許により本ページにて紹介させていただいている。
STUDIO NINÉ田中伸明がアトリエ在席中にメインアーキテクトとしてデザインから監理までトータルに携わったものである。